高血圧とは、動脈内の圧力が異常に高い状態のことです。
多くの人にとって高血圧という言葉は過度の緊張や神経質さ、ストレスを連想させます。医学用語での高血圧とは、その原因を問わず血圧の高い状態を示します。高血圧は、普通に生活していくのに必要な臓器が損傷を受けるまで、何年もの間、まったく症状が現れないことが多いことから、「サイレントキラー(静かな殺し屋)」と呼ばれています。まったく治療していない高血圧は、脳卒中、動脈瘤(どうみゃくりゅう)、心不全、心臓発作(心筋梗塞)、腎障害などにかかるリスクを高めます。
5000万人以上のアメリカ人が高血圧にかかっていると推定されます。高血圧はアフリカ系アメリカ人に最も多く、白人とメキシコ系アメリカ人の有病率が23%であるのに対し、アフリカ系アメリカ人では成人の32%となっています。また、高血圧の合併症が起こる割合もアフリカ系アメリカ人で多くなっています。高血圧は高齢者に多くみられ、20〜74歳では高血圧の人が約4分の1にすぎないのに対し、75歳以上では女性の約4分の3、男性の3分の2近くが高血圧にかかっています。肥満の人での有病率は、肥満ではない人の2倍となっています。
米国で高血圧と診断されているのは、実際に高血圧にかかっている人の3分の2だけと推定されています。これらの人々のうち、約75%が薬物療法を受けており、十分な治療を受けているのはそのうちの約45%です。
血圧を測る際には、2つの数値を記録します。高い方の数値は動脈内圧が最も高い状態を反映しており、それは心臓が収縮している収縮期に生じます。低い方の数値は動脈内圧が最も低い状態を反映しており、それは心臓が再び収縮し始める直前の拡張期に生じます。血圧は「収縮期血圧/拡張期血圧」という形式で表示します。たとえば、収縮期血圧が120mmHgで、拡張期血圧が80mmHgの場合は120/80mmHgと表示します。
高血圧は、安静時の収縮期血圧が平均140mmHg以上か、安静時の拡張期血圧が平均90mmHg以上、あるいはその両方を満たす場合と定義されています。しかし、血圧が高くなれば、それが正常範囲内であっても、疾患としての危険性は増大するため、これらの境界値はやや恣意的なものです。この境界値は、血圧がこれらの数値を超えると合併症の危険性が高くなることから設定されました。高血圧ではほとんどの場合、収縮期血圧も拡張期血圧も高くなります。例外は高齢者で、一般的に拡張期血圧が正常かそれ以下の90mmHg未満であっても、収縮期血圧は140mmHg以上です。このような高血圧は孤立性収縮期高血圧と呼ばれています。
血圧が180/110mmHgを超えても何も症状がみられない場合は、高血圧急迫症です。
悪性高血圧はきわめて重症な高血圧で、高血圧緊張症とも呼ばれます。血圧は210/120mmHg以上になります。高血圧の人の約200人に1人しか発症しません。しかし、白人よりも黒人、女性よりも男性、富裕層よりも貧困層では数倍も多くみられます。高血圧急迫症と異なり、悪性高血圧はさまざまな重い症状を起こす場合があります。治療をしないと、悪性高血圧は普通、3〜6カ月で死亡します。
体の血圧調節
体には血圧を調節するためのたくさんのしくみがあります。体は心臓が送り出す血液の量、動脈の内径、血流中の血液の量を変化させることができます。血圧を上昇させるため、心臓はより強く速く拍動して、より多量の血液を送り出すことができます。細動脈は縮んで狭くなり、拍動ごとに普通よりも狭い内腔に血液を通すことができます。動脈の内腔が狭くなるため、普通と同じ量の血液が通っても血圧は上昇します。静脈は収縮して静脈内の血液量を減らし、動脈内の血液量を増やすことができます。結果として血圧は上昇します。血液の容量を増やすために血流に体液を加えると血圧は上昇します。逆に、心臓が弱く遅く拍動したり、細動脈や静脈が拡張したり、血流から体液が失われれば、血圧は低下します。
これらのしくみを調節しているのは、無意識下に体内の代謝などを調節する神経系の一部、自律神経系の交感神経と腎臓です。何らかの脅威に対する体の生理的反応である「攻撃‐逃避反応」が起こると、交感神経はいくつかの方法で一時的に血圧を上昇させます。交感神経は副腎を刺激してエピネフリン(アドレナリン)とノルエピネフリン(ノルアドレナリン)というホルモンを放出させます。これらのホルモンは心臓を刺激して、拍動を速く強くさせ、ほとんどの細動脈を収縮させ、一部の細動脈を拡張させます。拡張する細動脈は、意識して動きを調節する骨格筋など、血液の供給量を増やす必要がある部位にあります。交感神経はまた、腎臓を刺激して塩分と水分の排出量を減らし、血液量を増やします。
腎臓も血圧の変化に直接的に反応します。血圧が上昇すると腎臓が塩分と水分の排出量を増やすので、血液量が減り、血圧は正常に戻ります。逆に血圧が低下すると、腎臓が塩分と水分の排出量を減らすため、血液量が増え、血圧は正常に戻ります。腎臓は、アンジオテンシンIIというホルモンの産生を引き起こすレニンという酵素を分泌して血圧を上昇させます。アンジオテンシンIIは、アルドステロンという、腎臓の塩分と水分の保持量を増加させる別のホルモンの放出を誘発することによって、細動脈を収縮させ、血圧を上昇させます。
たとえば、急激な運動や強い情動などの何らかの変化で血圧が一時的に上昇する際、普通は変化に拮抗し、血圧を正常な数値に保つために体の代償機構の1つが誘発されます。たとえば、心臓が送り出す血液量が増加して血圧が上昇すると、血管が拡張し、腎臓での塩分と水分の排出量が増えて血圧が低下します。
原因
原因不明の高血圧は、本態性高血圧あるいは原発性高血圧と呼ばれています。高血圧の85〜90%は本態性高血圧です。心臓と血管に生じたいくつかの変化が組み合わさって、血圧を上昇させると考えられます。たとえば、血管の収縮によって、血流にかかる抵抗が増加し、1分間に送り出される血液の量(心拍出量)が増えることがあります。全体の血液量も増加することがあります。このような変化が起こる原因はまだよくわかっていませんが、先天性の異常によって血圧を調節する細動脈の収縮が妨げられるためではないかと考えられています。
原因の明らかな高血圧は、二次性高血圧と呼ばれます。高血圧の10〜15%は二次性高血圧です。腎臓は血圧の調節に重要な器官なので、多くの腎障害が高血圧を引き起こします。たとえば、腎臓が損傷すると、体から十分な塩分や水分を除去する能力が障害され、血液量と血圧が上昇します。高血圧の5〜10%は腎障害が原因です。こうした腎障害には、腎動脈狭窄症(片方の腎臓に血液を供給する動脈の狭窄)、腎炎、腎損傷などがあります。
高血圧の1〜2%は、内分泌障害や経口避妊薬などの特定の薬物の使用が原因で起こる二次性高血圧です。高血圧を引き起こす内分泌障害には、コルチゾールの血中濃度が上昇するクッシング症候群、甲状腺機能亢進症、副腎の1つの腫瘍(しゅよう)による場合が多いアルドステロンの産生過剰である高アルドステロン症、そしてまれに副腎の腫瘍で、エピネフリンとノルエピネフリンを産生する褐色細胞腫などがあります。
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